ふたり大阪・食い倒れBluse/その13・宿にて一息休憩

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大阪の午後を飲みぱなしの食べっぱなしで過ごしたtakeさんと伊蔵は今夜の宿である『スーパーホテル大阪・天王寺』へと戻りチェックインする為に一旦戻ったのだった。ホテルに到着したのは午後4時。フロントで預かってもらっていた荷物を受け取り、名前を伝えるといつもの通り自動精算機で精算となる。精算機から吐き出されたレシートに部屋のキーである暗証番号が記載されている。takeさんは9階の部屋で伊蔵は4階の部屋であった。

takeさんも大阪までバイクで走って来ており伊蔵も朝から大阪の街を歩き回っていたので相当疲れが溜まっていた。午後6時頃まで各自ゆっくりと身体を休めてから再び夜の大阪の街へ繰り出そうという事になり、エレベーターで別れた。スーパーホテルの部屋はこざっぱりとした部屋で必要最低減のものしか用意されていないが、泊まるだけならこれで十分だ。まずは一寝入りするとしよう。

昼間大阪の街を歩き回ってみて思った事だがこの街は、いや住む人がといえばよいかもしれないがどこか“もの哀しさ”というものが漂っている。またそれとともにこうした都会の下町によく見られる“人情深さ”というものも深く内包している感じがするのだった。大阪をテーマに歌った数々の名曲があるが、そのヒット曲のほとんどは哀しさ漂うブルース調の曲が多い。それが大阪という街にはしっくりと来る不思議さがここにはあるのだ。

◆大阪で生まれた女/BORO  YouTubeより
http://www.youtube.com/watch?v=V-XEroHRc_w

◆悲しい色やね/上田正樹 YouTubeより
http://www.youtube.com/watch?v=C8OUCY0Ijl4

◆月のあかり/桑名正博 YouTubeより
http://www.youtube.com/watch?v=BvgrTxhNVRM&feature=related

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つい先日、山田洋次監督の『おとうと』という映画を公開初日に見にいって来た。東京で夫に先立たれながらも一人娘を育て上げ堅実に生きて来た姉・吟子(吉永小百合)と、大阪で何ひとつ成し遂げられないままに歳だけを重ねてしまい、酒が入ると失敗ばかりしているどうしようもない弟・鉄郎(笑福亭鶴瓶)の物語。“泣ける映画”と聞いて見にいって来た。そしてその通りに泣けてしまった。
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鉄郎(笑福亭鶴瓶)は長兄・庄平(小林稔侍)と姉・吟子(吉永小百合)の三人兄弟の末っ子で大阪で住んでいるのは分かってはいるものの何年も音信不通だったが吟子の一人娘(鉄郎にとっては可愛い姪っ子)の結婚式にひょっこり顔を出し庄平と吟子から『お酒だけは飲むな』と念を押されていたにも関らず飲んでしまい、式を全面的に台無しにしてしまう。鉄郎は単に可愛い姪っ子のお祝いにやって来ただけなのであったが、当の姪っ子からも毛嫌いされ実の兄弟親類みんなから(特に長兄の庄平から)も“除け者扱い”されていた。
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この結婚式の一件で庄平からは兄弟の縁を切ると宣告されてしまう。しかし姉の吟子(吉永小百合)のみはこのどうしようもない鉄郎の事を何かと気に掛けては世話をしていたのだった。しかし後に起きた事件がキッカケでさすがの吟子もガマンが出来なくなり、鉄郎に絶縁を言い渡してしまう。鉄郎は半ば喧嘩別れのような感じで大阪へと戻っていったのだった・・・・。

それからしばらく後、大阪西成区の警察署から吟子宅に連絡が入る。吟子は絶縁を言い渡したものの鉄郎の事をやはり気に掛けており大阪の警察に鉄郎の捜索願いを出していたのであった。西成区の警察署からは鉄郎が病気であり救急車で運ばれたのだが引き取り手が無い為、吟子に引き取って貰いたいとの事であった。吟子は大阪の西成区へと出向く決心をする。鉄郎は不摂生な生活、酒の飲み過ぎから身体を癌に侵されてしまっており、あらゆる臓器に癌が転移してしまっていて余命いくばくもない状態であった。

お金が払えない為に病院からも見放されていた鉄郎は、西成区にある彼の様に身寄りが無く、病気によって余命がない人々を引き取り、最後の時までを看取ってくれるという民間団体の主宰するある施設に身を寄せていた。そこで吟子は鉄郎との再会をはたすのだが・・・といった感じのストーリー。伊蔵は鉄郎役の鶴瓶に感情移入はなはだしくなってしまいついつい泣けてきてしまった。
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鉄郎は結局助からず、毛嫌いされていた姪っ子や吟子や施設職員らに温かく看取られながら明け方の大阪の街をバックに息を引き取るのだった。彼の人生は自分のやりたい放題の連続でそれが為に周りに迷惑ばかり掛けていたろくでもない人生であった。しかしそんなどうしようも無い彼でも最期は一人で寂しく死ぬ事なく、自分の事を想ってくれる唯一の肉親の姉とその娘である姪っ子に看取られて死んでいける事が出来た。これは本当に良かったと思う。

この作品で特に笑福亭鶴瓶の演技が俊敏だ。彼の演技で無いような普通さがかえって凄さと迫力を持ち巧いの一言。本来が落語家の彼はこうした役者としての仕事も大変合っているらしく、グイグイと物語に引き込まれてしまい心を掴まれてしまう。彼の演技は映画界でも最近脚光を浴びている。公開初日に『おとうと』を見た次の日にたまたまテレビで同じ山田洋次監督の『母べえ(かあべえ)』を見た。鶴瓶と吉永小百合はこの映画でも共演していて、鶴瓶は“奈良の変なおっちゃん”役で登場するがこれもインパクトのある役でやはりその演技は光っていた。

もう一つ。年輩の方からは吉永小百合の美貌は昔から変わらないという意見をよく聞く。まぁそれはその通りなのだが伊蔵はもう一人この映画に出演している西成区の施設で働く女性スタッフの一人「石田ゆり子」も昔から全然変わらんなと思った(笑)

大阪の西成区ではこういう鉄郎のような身寄りのない、もしくは家族からまた社会からも除け者扱いされ全国至るところから流れて来た人々がきっと多い事だろう。そのほとんどは人知れず独りっきりで悲しい最期を遂げるのが現実だ。映画『おとうと』での大阪の街の描写も今回大阪に旅に出た時と同じく伊蔵の目にはやはり“哀しく”映ったのだった。<つづく>

◆映画『おとうと』公式サイト
http:///www.ototo-movie.jp/
◆映画『おとうと』予告編
http://www.youtube.com/watch?v=_EUcjeqqdJM





ふたり大阪・食い倒れBluse/その12・立ち飲みホルモン『マルフク』(2)

西成区太子でやっと見つけた立ち飲みホルモンの店『マルフク』。ホロホロ・・・とほぐれる柔らかい“豚足の煮込み”を全てやっつけ骨ばかりにした我々が次に注文した品は、先程からカウンターの向こうの大きな鉄板上で踊るように焼かれていた“ホルモン”だった。
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器は先程と同じく豆腐を入れるプラ製の器(笑)。緑鮮やかな葱が乗せられトロリとしたタレがかけられたホルモンは実に美味しそうだ。これを“爪楊枝”で突っついて頂く。タレの甘さがホルモンによく合っていて美味しい。ホルモン自体も臭みは一切無く、柔らかすぎず固すぎずの丁度良い歯応え感。御飯と一緒に是非食べてみたい衝動に駆られる(笑)。次に頂いたのは“コブクロ”。ポン酢と赤ダレの二種類の味が楽しめる。takeさんが店の大将にすかさずどちらがお勧めかを訪ねると“赤ダレ”の方だという。お店の方がいうのだから間違いあるまい赤ダレを頼んだ。
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鮮烈な色の赤ダレに染まったコブクロが小皿に盛られてやって来た。コブクロ特有のコリコリとした食感とピリリッと辛味が効いた赤ダレがアクセントとなってこれまた美味しいのであった。

コブクロを頂きながらアサヒ生スタイ二ーボトルで喉を潤しながら改めて店内を眺めてみると『マルフク』の店内は地元のおっちゃんや労働者風のおっちゃんで一杯だ。一品一品がとても安いので日雇い労働者の方にも優しい店だ。きっと銭が少しでも手に入ったらこういった低価格でお酒とツマミが楽しめるお店に行っては食べ、飲み、明日へ労働の活力を養うのであろう。それは決して贅沢ではないささやかな楽しみなのである。

takeさんと伊蔵は立ち飲みホルモン屋『マルフク』さんを後にした。この後一旦今夜の宿である『スーパーホテル大阪・天王寺』へと戻りチェックインの手続きをする事になった。

宿への帰り道も例のドヤ街を歩いていった。その風景は都会のどこにでもよく見かけるものだがこの西成区のドヤはどこか違っている。それは日雇い労働者達の辛さ悲しみというものなのだろうか・・・そんなようなものがモヤモヤとして街のビルの壁や塀、路地裏のそこかしこ、またこの街に住んでいる多くの人達自体にも沁み付いてしまっているといえばいいのか。とにかくこの地区は異質な雰囲気を感じざるを得なかった。<つづく>

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◆ホルモン マルフク
・住所/大阪府大阪市西成区太子1-6-16
・電話番号/06-6641-8848
・営業時間/9:00〜20:00


ふたり大阪・食い倒れBluse/その11・立ち飲みホルモン『マルフク』(1)

takeさんと伊蔵は西成区のドヤ街が建ち並ぶ筋を歩き、堺筋の大きな通りに出た。出てみたものの目指すホルモン屋の場所がはっきりしない。しばらくまた辺りをウロチョロする。右手の大きな交差点は『太子交差点』でJR大阪環状線の『新今宮駅』と阪堺電軌阪堺線の『南霞町駅』が交差して立地している。地下には地下鉄御堂筋線の『動物園前駅』がある。
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この大きな太子交差点を少し西に向えば、この地区の多く住む日雇い労働者の人々が早朝から仕事を求めて長蛇の列をつくるという『あいりん労働者福祉センター』の無機質なコンクリート製の建物がある。

ホルモン屋の住所によると太子交差点付近だという事が分かるのだがなかなか見つからなかった。取りあえず交差点から堺筋を南へ向かって歩いてみる事にした。

『おお!伊蔵くん!あったぞ!』

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歩いていたtakeさんの指をさす方向に小さいながらもそれでいて派手な赤い店舗が見えた。これがこの西成区でもかなり有名なホルモン屋『マルフク』さんである。真っ赤な外壁に黄色の看板とテント・・店の間口は狭いがかなり目立つ店構え。この『マルフク』さんの飲食のスタイルは大阪の飲食店のよくみられる形態、いわゆる“立ち飲みスタイル”であった。勿論どのメニューも低価格(大体一品100円〜200円くらい)なのは言うまでも無い。
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シャッターを開け放った店内にtakeさんと共に入るといきなりカウンター(笑)。カウンター沿いに並ぶ客層は皆ひと癖ありそうな関西のおっちゃんばかり。若い大将がカウンター越しの大きな鉄板の上で両手にヘラを握り『カッカッカッ・・カシャンカシャン・・カッカッ・・・』とリズミカルにホルモンを転がしつつ焼いている光景が何とも言えず良い。焼き上がると丁寧にホルモンを鉄板脇に綺麗に並べる。
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焼き専門の若い大将と年老いたおっちゃん二人がカウンター内で作業していた。takeさんに言わせるとこうしたお店ではちゃんと役割分担が厳格決まっているものであり店の奥の客から見え無い厨房部でも内臓部位を細かく仕分ける人達が居るものだよ・・と話してくれた。

taakeさんと伊蔵はカウンター角に場所を決めカウンターに肘を置きまずはビールを頼む事に。ビールはこの『マルフク』さんでは通称“赤”と称されるアサヒの生スタイ二ーボトル。勝手に店頭隅に置かれている冷蔵庫から取ってやってくれと言われtakeさんが二本用意してくれまずはラッパ飲みで一杯(笑)。ビールで喉を潤してしみじみと思ったが伊蔵はこういう立ち飲みスタイルの飲み屋で飲むのは初めてである事に気が付いた。立ち食い蕎麦は度々あるけどな。ちょっとした関西の飲食カルチャーショックを受けているとtakeさんが早々とお店の大将に注文をしていた。
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豆腐のパックの様なプラ製の器にまず盛られて来たのは『豚足の煮込み』で200円。これを二人で分けて食べる。かなりトロットロに煮込まれており丸ごとパクつけばホロホロ・・・とすぐに身が骨から剥がれ落ちる感じ。しかもその身はブルブルルン・・・とした震える様なゼラチン状で口の中で適度に躍り、そして溶ける。ほんのりと甘辛い味付けがこれまたいいのだ。口の中で骨と身を剥離させポロポロ・・と骨のみをプラ容器に排出しつつスタイ二ーボトルのビールで口の中を洗う様に湿らす。この一連の作業を真っ昼間に行なっているというある種の優越感を(極々小さな優越感であるが・・)西成区の小さなホルモン屋で味わっている我々二人なのであった(笑)。<つづく>





『一宮会』

大阪のレポの途中ですが別のお話を挟ませて頂きます。
先週のとある日の事だった。伊蔵のケータイにメールが!

『伊蔵、999(銀河鉄道)に乗りなさい』

おお!伊蔵の飲み仲間“メーテル”ことAさんからのメッセージだ。メッセージの内容は一宮市で飲み会をやるからアキラ氏を誘って来なさいとの事であった。そういえばAさんと年末に一緒に飲んだ時に一宮で飲む話をしていたのを思い出した。

1月23日土曜日の午後6時に一宮駅前で待ち合わせる事になっていたがアキラ氏、伊蔵ともにこの日は出勤日であった為、遅れるのが確実だった。先に始めていて欲しいと伝えておいた。当日はアキラ氏の愛車“ホワイトベース”で一宮市へ。
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そして約1時間遅れで一宮駅前に到着。Aさんが指定したお店は駅前ロータリーから細い路地を少し入った場所にある極々普通の佇まいの居酒屋『鵜かい』さん。Aさんの会社の同僚の方々と何度か活用しているお店だという。早速アキラ氏と伊蔵は『鵜かい』さんの戸を開けて店内へ。

店内は向かって左側にカウンター席、右側にはテーブル席が並んでいて結構広い。大将と奥さんとで切盛りされているようだった。一番奥のテーブルを幾つかくっつけてAさんとその同僚の方々がすでに宴を始めていた。ん!?・・・あれは・・・テーブル席に見覚えのある男性が!

『ドウモ!!』

おわっ!女性4名に囲まれて満面の笑顔で我々に声を掛けて来たのはなんと“たいがぁ氏”であった(笑)。虎は千里を走って一宮までわざわざやって来たらしい。『一宮会』と名打たれた今回の飲み会のメンバーは結局女性四名、男性三名の計七名だった。

テーブル席につくと宴が始まってすでに小一時間が経っているのでいくつかの料理が並んでいる。アキラ氏と伊蔵はそれらから早速頂き始めた。『鵜かい』さんのお店のお品書きには本日のおすすめ品をはじめ、極々普通の居酒屋によくある品揃えといった感じだった。

メンバー七名での宴はかなり賑やかなものだった。とにかく女性陣が元気で話は止めどないしお酒は飲むしとある意味“飛んで”いた。次から次へと話が脱線してはまた繋がったりと聞いている我々は少々疲れてしまった程(笑)。お酒はビールからスタートしやがて何故か冷やの日本酒方面へと変わっていった。『鵜かい』さんで出された小さなボトルの生貯蔵酒は『菊川』という名だった。
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とかく日本酒は口当たりがよく飲みやすい為、メンバーみんなは話の盛り上がりとの相乗効果でどんどんボトルを空けていき、宴の終わり頃にはこんなに空けていた・・・。
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しかもいつの間には枡酒まで飲んどるし(笑)かなり飲んでしまった・・・。これが今考えると良くなかった・・・。その後楽しい時間はあっという間に過ぎ去り宴はお開きとなったが『鵜かい』さんの店を出てからの伊蔵の記憶は断片的にしか残っていない。一宮が地元であるアキラ氏はそのまま歩いて帰宅、Aさんとたいがぁ氏とは一宮駅の改札口で別れたのはうろ覚えだが記憶に残っている。

そこから以降の伊蔵の記憶は完全に消えていた・・・

どれだけの時間が経っただろう・・・伊蔵は駅に停車していた列車の中でハッと気がついた。頭が重い・・明らかに飲み過ぎだ。ここは一体どこだろう・・・。どうやら列車は終点駅に到着したらしい。ホームに降り立つと名鉄の駅には間違いなかったが駅近くの街並は全く伊蔵が見た事の無い光景であった。とにかく改札口で精算を済ませ真夜中の駅前のロータリーに降り立ち駅舎の駅名を確認して伊蔵は自分の目を疑うと同時に驚愕した!







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『ななな、なにぃ〜!知多半田駅・・・・!?』

う〜む久々にやっても〜た・・・。伊蔵の計画では一宮駅から木曽川を越えて一旦岐阜駅を経由し各務原線で犬山方面へ帰る予定だったのだが・・・どうやら名古屋方面へ向かう列車に乗ってしまったらしい。知多半田は知多半島の付け根からさらに南へ少しいった場所である。伊蔵の自宅からはかなり離れている。

名鉄知多半田駅前は真っ暗でタクシーを待つ人が数人いるだけ。これは困ったぞ。困った伊蔵を追い討ちをかける様にさらに驚愕の出来事が!

ケータイが無いのである!全くどこで落したのか記憶にない。しかも酔ってケータイを紛失したのはこれが初めてではなく二度目。伊蔵はホトホト自分に呆れ返るとともに途方に暮れた。前回は警察に紛失届を提出し、携帯電話会社で自分の携帯の全ての機能をストップするロックをかけて貰ったりと擦った揉んだしたが無事に出て来たので良かったが同じ過ちを二度もしてしまうとは・・・情けない。すぐにでもこの件について対処したかったのだが身体がいう事を効かなかった。

しかし半田まで乗り過ごしてしまうとは。タクシーで帰ろうかとも一瞬思ったがそんな勿体無い事も出来ない。ここは半田だし(苦笑)。半田からタクシーで帰ったらいくらとられるか分かったものではない。伊蔵はこの見知らぬ街で一夜を過ごす事にした。
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幸運にも名鉄『知多半田駅』前に『名鉄イン知多半田駅前』という名鉄が経営するビジネスホテルがあった。伊蔵は情けないのと困ったのと酔っているのとでフラフラとした足どりでホテルへと向かった。今はとにかく早く床につきたい。その一念だけが伊蔵を突き動かしていた。
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フロントでは綺麗なおねえさんが丁寧に対応してくれた(こういう記憶だけはハッキリしているのも情けないが・・)。どうやらシングルの部屋が空いているらしい。朝食付き一泊で6,500円。痛い出費だが半田から岐阜までタクシーで帰るよりはマシだろう。おねえさんにチェックを済ませて貰うとエレベーターで8階に用意された部屋へと伊蔵は向かい、部屋に辿り着くとそのまま泥の様に寝てしまった。

翌朝は朝食を食べる元気も無くチェックアウト午前10時ギリギリまで部屋で休んでから帰宅する事に。急行列車に揺られていると気分が悪くなってしまった。まだ昨晩の酒が残っているようだ。名古屋駅で一旦列車を降り、冷たい缶コーヒーを胃に流し込むと幾分気分の悪さは収まった。

かなりの時間をかけて自宅に戻った伊蔵は早速紛失したケータイの捜索作業に掛かった。どこで落したのか全く記憶に無いがとにかく一宮〜知多半田間の名鉄沿線で無くした事は確実だったので『名鉄お客様センター』に電話をかけ自分のケータイの特徴と列車に乗ったおおよその時間や駅名を伝えるとオペレーターが名鉄全駅の紛失物検索を掛けてくれた。以前にケータイを紛失した際もこの方法で見つかったのだった。

わずか数十秒の検索時間の後、ケータイは無事に見つかった。どこで保管されているのかを聞いてみると名鉄名古屋本線の『鳴海駅(なるみえき)』だという。まぁ無事に見つかって良かった。鳴海駅の電話番号を聞き電話をかける。

鳴海駅の駅員さんに改めてケータイの特徴を伝えるとどうやら自分の物に間違いないようだった。鳴海駅から犬山駅まで列車を使って搬送してくれるという。それから1時間半ほど経ち、今度は犬山駅から自宅に電話が入り無事にケータイが到着したので受取りに来て欲しいと連絡がきた。それから犬山駅まで伊蔵は出向き無事に自分のケータイと目出たく再会となったのだった。

酒を飲む時はケータイはやっぱり首から下げておくかなんかしないといかんなと改めて思った。ケータイを無くすとホント大変だし。改めて日本酒という酒は飲み方が難しく油断が出来ないと思った。

はからずも伊蔵の2010年最初の一泊の旅がこのような形で始まろうとは当の本人も全く予想出来なかった(笑)。ホントは一宮で楽しく飲むだけの晩だったはずなのに…そんなこんなでとても忙しい土日でした・・・。

ふたり大阪・食い倒れBluse/その10・異界西成区へ

『ジャンジャン横丁』は数百メートルも進めば終わってしまう。目の前を塞ぐようにJR大阪環状線の高架が現れる。ちょうどこの辺りが浪速区と西成区との境界になっている。JRの高架下には狭い通路があり、暗い口を開けて向こう側へと誘っていた。この狭い通路の向こう側は大阪市内の中でも最も治安の悪い場所として知られている西成区である。お目当てのホルモン屋はこの西成区の太子一丁目という場所にあるらしい。
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とにかくtakeさんと伊蔵はジャンジャン横丁から西成区へと続く高架下の通路を歩いて行った。そこでは怪し気なおっちゃん達が露店を開いていてこれまた随分怪し気な商品(衣類をはじめ雑貨品、ビデオやDVDなど)を販売している。多分この場所で物を販売する事自体が違法なのであろうが、そんな事は浪速のおっちゃん達には関係が無いようだった。
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おっちゃん達が販売している物品はどれをとっても怪しい物ばかりで、一番『こりゃどうみてもおかしいやろ・・・』と思ったのが2009年6月13日、つまり本日公開の『ターミネーター4』のDVDがすでにこの高架下で販売されていた事だった(笑)。これにはtakeさんも伊蔵も空いた口が塞がらず失笑。浪速のおっちゃんの商人魂は実に凄まじい・・・。
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高架下の怪し気な露店を見ながら歩き抜けるともうそこは西成区。どことなく目の前の街並の“寂れ具合”が一見して増したような感じが・・・。正面に国道43号の大きな通りが東西に走っている。その通りの正面向こう側に新たな商店街の入口が見えた。取りあえず横断歩道を渡り商店街の入口へ。この辺りは治安が悪いと聞いていたが昼間の光景はなんら普通の街はずれの寂れた商店街の風景と変わりが無いように見えた。
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それは『飛田本通商店街動物園前一番街』という商店街の入口であった。この商店街をしばらく真っ直ぐに歩いて東に少し入った所がかつて飛田遊廓があった場所。遊廓が全盛の頃はこの商店街も随分人で賑わっただろうが今見る限りこの商店街は人通りもあまりなく、寂し気というよりも西成区にある商店街という先入観が先に立ってしまうからなのかこの静けさの中にある種の不気味さを感じてしまう。

takeさんと伊蔵が目指すホルモン屋はすぐには見つからず、しばらく二人で辺りをウロウロする羽目になった。住所は分かっていたので携帯を駆使しつつ場所を探した。どうやらこの商店街よりもう少し西寄り方向へ歩かねばならない事が分かり、商店街を入って一筋目の道を右折した。
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その道に入ると辺りは“ドヤ”(簡易宿所)が建ち並ぶ通りだった。いわゆる“ドヤ街”である。西成区内の通称“あいりん地区”の周辺にはその日その日を生きていくにもギリギリの生活を余儀なくされている日雇い労働者の方々が多い為、こうした低料金で宿泊可能な宿が集中して建っている場所が多い。数百円から高くても二千円もあれば宿泊出来てしまう。
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元々マンションだった建物を宿に改修したのか一見外から眺めると立派な宿に見える。しかし成りは立派に見える宿だが勿論食事は付かない。宿泊費が数百円という部屋は風呂・トイレ、冷暖房・テレビも無く、きっと畳三畳一間程の部屋で寝るだけのスペースしかあるまい。かなり安く宿泊出来るという事で最近では外国人バックパッカーにこうした宿は人気なのだという。

伊蔵もかつてJR京都駅付近に多数存在する数々の安宿に泊まった経験がある。木造の今にも崩れそうな古い木賃宿の一泊500円の部屋に泊まった。狭くて軋む階段を上がった二階の一番奥の部屋だった。薄暗い廊下沿いには非常に狭い間隔でいくつかの部屋が並んでいた。通された部屋はやはり三畳間。布団が置いてある以外何も無い部屋だった。明かりは小さな蛍光灯が一つオマケ程度に付いているのみ。食事・冷暖房・テレビ無し、トイレは共同。風呂も無い(風呂は宿近くの銭湯へ行くように薦められる)。

伊蔵がこの宿に泊まったのは折しも寒さ厳しき冬。京都盆地の冬の寒さは身に堪えた。部屋の中でも吐く息は白く、布団に包まっていてもガンガンに底冷えする。寒さをしのぐ為に持参していたステンレス製のスキットルに入った“スミノフ”というウォッカをストレートで喉に流し込んでは寒さを耐えていた。この当時の伊蔵はノイローゼ気味で酒の飲み方は今現在とは違いかなり悪かった・・・グラッグラに酔っては我を忘れてしまうくらいに飲むような常に自虐的な飲み方ばかりしていた時期である・・・。

ドヤ街を歩きながらそんな事を思い出した。takeさんと二人そんな中、西へと歩いていると突然、

『うぉ〜〜〜い?!・・ふぁふぁはぁ〜い・・』

と叫ぶ声が!ドヤ街の路地裏に作業服やジャージに身を包んだ労働者風のおっちゃん数人が路上に座り込んではたむろして、しかも酒に酔っているらしくへべれけになりながら歩いていた我々に野次を飛ばして来たのである。我々は一瞬身構えたものの無視しつつ歩き続けたのだった。やはりここは日本最大のスラム街である事を改めて思い知らされた一瞬であった。昼間はこの程度で済むもののこの周辺での女性の一人歩きは出来まい。いついかなる犯罪に巻き込まれるとも限らないからだ。

あいりん地区という狭い地域にひしめく日雇い労働者は三万人にもなるというがそれに対してあいりん労働公共安定所から一日に紹介される仕事の数はかなり少なく、とても全員に行き渡る事がないという。その為、仕事にありつく為には早い者勝ちであり早朝から安定所の前には労働者の行列が出来るという。当然その日の仕事にあぶれてしまい貯えの無い人達は食う物もなく泊まる場所も無い。

食べる物については慈善団体が頻繁に行われる炊き出しに頼ればなんとかなる。住む場所としてブルーシートで小屋を建てていればまだいい。小屋も無い人は必然的に路上でそのまま寝る形になる。この付近では真っ昼間から路上で倒れて寝ている人を頻繁に見かけるのである。
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またこの特殊な地区は他の場所に比べて物価が極端に低い。缶ジュースなどの自販機も50円で販売されていたり飲食店で出されているお品書きをみてもかなり低料金で食事が出来たりする。それでもお金を払って食事が出来ない人のために慈善団体が定期的に配給・炊き出し等を頻繁に行なっている。職を失い全国からこの地区へ流れてくる人も多い。その為、本来ならばこの地に流れて来たその人の住んでいた地方自治体が負担すべき生活保護費を大阪市が負担している形になってしまう為、これが大阪市の財政負担の増大の一因にもなっており問題視されている。

こうした無法ともいうべき特殊な地域ゆえに犯罪者が身を隠す格好の場所でもある。記憶にも新しい外国人英会話講師殺害事件のI容疑者もこの地区に流れて来て建設業の職を得ている。この地区周辺には暴力団事務所も多数存在し覚醒剤売買の取引きも頻繁に行なわれているらしい。また日頃の鬱憤がいつ労働者の“暴動”となるか分からない地区ゆえに(過去にも何度か暴動が実際あった)この地区を管轄する西成警察署の建物はある意味「要塞化」されている。

今の世の中いつ何時自分がこういう労働者と同じようになるか分からない。いや今の普通の生活を送る自分を含めた大多数の人々の生活と、この地でその日その日を必死に生きる彼ら日雇い労働者の人々との生活というのははひょっとしたら突き詰めて考えてみると実は同じなのかもしれないと思う事さえある。

◆長渕剛/カラス(You Tubeより)
http://www.youtube.com/watch?v=ZotzSr9f8I8

思わずこの曲のフレーズが伊蔵の頭に浮かんだ。現代に普通に生きる人々を都会に群れる「カラス」に例えている歌詞なのだが・・・。なんだかこの日本国内でも稀にみる特殊な地区が実は“日本の社会の縮図である”と多くの専門家や外人からいわれる所以がどことなく分かる様な気がした。<つづく>

 

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