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2008-04

伊蔵の『お伊勢参り』/その11・伊勢うどん(ちとせ編)

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伊勢市街の西の外れから元来た道を歩き伊蔵は伊勢うどんの店『ちとせ」さんへと戻って来た。時刻は午後1時半前。お昼時の混雑もこの時間になれば解消されている頃だろう。お店の前に辿り着くと思った通り店内は空いているようだ。
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少々歩き疲れお腹も減っていた伊蔵は『ちとせ』さんの暖簾をくぐりガラリと戸を開けて店内へと入って行った。

店内はごく普通の“大衆食堂”的な雰囲気。座敷はなくテーブル席のみで外から想像していたより店内は広めだった。壁にはまるでお札のようなメニューがいくつも張り付けられている。『伊勢うどん』でも「肉」「月見」「山菜」「きつね」「山かけ」「かやく」「定食」など様々なバリエーションがあり注文出来るようだ。

店内にはご家族連れの観光客一組とご近所のおばあちゃん一人がテーブルに座って『伊勢うどん』を啜っているのみ。これはゆっくりと食べる事が出来ると分かりホッとした伊蔵は窓際の席に腰を下ろした訳である。お店の方もお昼時の忙しさからやっと開放されたと言った感じで『いらっしゃいませ。』という言葉尻から幽かな疲労感というものが感じられた。

伊蔵は基本形のシンプルな『伊勢うどん』を注文しようかどうか迷ったが結局玉子好きな伊蔵は『月見伊勢うどん』(500円也)を注文した。客席テーブルのひとつ壁の向こうで今まさに『伊勢うどん』が茹でられているのであろう。伊蔵の期待は高まるばかりであった。
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程なく小振りの丼に伊蔵が注文した『月見伊勢うどん』が盛られそれがテーブルに運ばれて来た!。パッと目に飛び込んで来るのはその真っ黒な汁である。それは限り無く濃い・・。『ちとせ』さんでは極上の「さしみ醤油」をベースに昆布や鰹から出汁をとる時間を合わせると三日間かけてこの汁を仕上げるという。その漆黒の汁に眩しいばかりに映える白い柔らかそうな太麺が浮かぶ。まさにモノクロの世界が丼の中に広がっている!その中で明るい色を添えているのはわずかながらに乗せられた葱のグリーンと玉子の黄身のイエロー。そのシンプルかつ色のコントラストがなんとも美しい・・・。

早速伊蔵は初めての『伊勢うどん』を口へと運んだ。その刹那また驚いた。麺にコシというものがあまり無いのである。『讃岐うどん』にみられる強烈なコシとは似ても似つかない。それは箸で簡単に両断出来てしまう程にフワフワとしていて柔らかい。一瞬(これは茹で過ぎなのではないか・・・?)と思うくらいであったがどうもこれが伊勢うどん独特の麺の特徴であるらしい。“うどん”の麺でこれ程柔らかいものを伊蔵は食べた事が無い。この麺に絡むのが真っ黒な汁なのだが思った程辛くはなくむしろ甘いのでどんどん食べれてしまう。

『伊勢うどん』の歴史は古いといわれているがどのくらいの歴史があるのかはさだかではないという。江戸時代前、この地方の農民が地味噌から出来た「たまり醤油」をうどんに少しかけて食べていたのが『伊勢うどん』の原形となっている。約360年前に浦田町橋本屋七代目小倉小兵が伊勢参りの参詣客相手にうどん屋を開業したのがはじまりだという。これを鰹節やいりこなどの出汁を加え、たまり醤油をのばして食べやすくしたものが現在の『伊勢うどん』の基本形。そしてそのうどんを『伊勢うどん』として初めて看板として掲げたのがこの『ちとせ』さんという訳だ。

伊蔵は丼の中に浮かんだ玉子の黄身を箸先で突つきその漆黒の汁に馴染ませて飲んでみた。これがまた甘い汁の味をさらにマイルドにさせ太麺にも絡んで非常にイケるのである(笑)

そうか・・これが『伊勢うどん』というものなのか・・・。日本各地の『饂飩文化』の複雑さにあらためて気付かされた伊蔵であった。『讃岐うどん』に見られる異常なフィーバーぶりようにこの『伊勢うどん』を伊勢市の活性化に上手く生かせないものかとも少しばかり思った。

伊蔵のとなりのテーブル席に陣取っていたご家族は丼の残り汁を飲み干してはいかなかったようだが伊蔵は結局その漆黒の汁を全て飲み干してしまった(笑)温かい『伊勢うどん』は確かに美味しかったがこれは“冷し”で頂いてもかなり美味しいのではないかと思う(ちとせさんでは夏のメニューとして『冷し伊勢うどん』も出している)。

『ちとせ』さんの『月見伊勢うどん』を完食した伊蔵はしばし店内でゆっくりと寛いでいた。まだ口中には幽かに甘い醤油味が残っており初めて食べた『伊勢うどん』の素直な美味しさに伊蔵は感動しつつその余韻に浸っていたのである。しかしながらさすがにうどん一杯では満腹感というのがいまいち。これはもう一杯食べる事が出来そうだ。折角なのでもう一軒別の伊勢うどん屋さんを“はしご”して訪ねてみようと急に思い立った。

『ご馳走様でした。初めて伊勢うどんを食べましたが美味しかったです。』
『それは有難うございます。よかったですね。』

伊蔵はお勘定を支払う時にお店の方に素直な感想を述べた。うどん屋名利に尽きるという感じでお店の方もとても嬉しそうだった。また伊勢に来る機会があったら立ち寄ってみたいと思う。『ちとせ』さん美味しい『伊勢うどん』ご馳走様でした!伊蔵は次なる伊勢うどん屋へと歩を進めたのだった。<つづく>


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◆伊勢うどん『ちとせ』
・住所:三重県伊勢市岩渕1-15-11
・電話番号:0596-28-3879
・営業時間:午前10:00~午後7:00
・定休日:日曜日
・アクセス:近鉄鳥羽線「宇治山田駅」から徒歩3分



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伊蔵

Author:伊蔵
伊蔵と申します。
幻の焼酎から名を頂きました。
お酒・一人旅・自転車・麺類好き・歴史・読書・雑学・ネット・路地裏散策・廃道・街道・地図マニア。血液型:B型

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